詩【抱擁】

怒りと痛みと、

シラケた気持ちと、死にたい熱望と、

理不尽と、不眠に

真っ黒に塗りつぶされた日常の中で、

風と、花と、星が、

生命の官能を呼び覚ますから、

幼い頃の、僕のひだまりで、

夢を食べて生きた幼い頃の僕の日だまりで、

あのひだまりで、

夢に溶けてしまえばよかった。

幼い僕自身に

哀しみを知らなかったあの時に、

はやく、すぐに、躊躇わず、迷わず、

息の根を止めてあげられるよ、現在(いま)の僕なら。

抱擁のなかで。

詩【夕闇の呼吸】

世界があって、僕がいて、

僕がいまいるこの世界が、なくなったことを想像したら、

悲しくなった。

この世界が、醜いのは、僕が吹き出物みたいに世界にしがみついているからで、

だから、

僕が居なくなった世界を想像したら、世界はとても美しくて、

静寂も、喧噪も、歴史も、嘘も、

何にもなくなった、世界が、

世界だけがある世界が、僕がいない、世界が、

美しくて、

僕は、余計者なんだと、知った。

いつもと違う、

同じ

夕暮れのこと。

詩【逆上】

落ちているのか、昇天しているのか、わからずにいる子ども。

身を裂く傷が額に残って、

「思い出」とやらに変わっても、

怒りの感情が負債だった。

奇跡とやらを、女は望んだ。

死んでなお、生きよという。

それは呪いだ、願いじゃない。

寂しさなどは知らずに、

やましさだけが育つ。

苦しさには不感症で、

悔しさだけが、きりきりと食い込む。

のぼっているにせよ、落ちているにせよ、

失ったものは、踵だけじゃないと知った時には、

その時には、

「時間」だけが、すべての、証で、

「過去」だけが、痛んだ。

詩【靴ずれ】

波がきて、

ひいていく、

ただその淡いに、

きみがわらう。

そら。

あおい。海よりあおい、そら。

風にあおが揺れるから、と、

それが可笑しいから、と、

きみが笑うから、

ぼくは、足の痛みを無視して、

きみの、横を、

あるく。

【読書雑感】

細かな雨が降り続いているような錯覚に陥っていた。

そして窓の外の花は、その雨に打たれて震えていると。

僕は、読みかけの本をまだ読んでいる。

独り、部屋に寝転がってそれに没頭してみた。

物語はいよいよ佳境に入ろうとしていた。

主人公の苦しみは、全世界の哀しみを象徴しているかもしれないと、漠然と思ってみる。

物語の中で主人公は孤独すぎる。

「彼の自由と僕の自由」と呟いてみた。

書き手の自由と読み手の自由、と言い換えてみる。

どうしてそんなふうに言ったのか分からなかった。

目で文字を追っていて、音の無い世界に来ていると感じていた。

そう思っていたのに「作者の自由と読者の自由」などと呟いてしまったものだから、無音の世界が一気に破けた。

だけど、そこから僕は本当の世界に繰り出して行くんだと窓の外を見たら、

痩せた三日月が掛かっていた。

詩【冬の一輪】

唯物的な痛みが街を覆う。

死なんて、観念の遊びだと誰かは言うのに、
きみは、それでもその観念に拘っている。

拘束された感情が生活を積み立てる。
自由を貯金しながら、僕たちは年をとり、言葉を喰い散らかす。
誰にも同じ棘があって、抜き去れないモドカシさに手を焼くばかりだ。
この冬の寒さの中に。

前を歩く君の背中に、決定的な言葉を突立てたい。
振り向かないでくれ、何も見ないでくれ、言葉を、声を出さないでくれ。
花の幻を見たんだよ。

冬の乾いた街に咲く花など、造花のそれと違わない。

だけどさ、

だからこそ、

取り残されて咲き遅れて、
冷えきった街に咲く、
幻の優しさを、
信じて、みようか。

 

 

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